契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「東京近郊でカンヅメしようにも、すぐ飛び出しちゃう先生が悪いんでしょ?ここならそう簡単には逃げられませんからね。観念してくださいよ?」

階段の下まで降りてきたしのぶが、階上(うえ)を見上げて声を張り上げる。

「先生にはいつまでも、週刊誌なんかのコラムなどの雑文でお茶を濁されてもらってては困るんです……そろそろ本腰を入れて、新しい『代表作』になるものを書いていただかないと」

……編集者って、たいへんなんやなぁ。

栞は、まるで母親のように叱咤するしのぶに同情した。

「あぁ、八木さん……お待たせしてごめんなさいね」

栞は「あ、いえ……」と口の中でもごっとつぶやきながら、ソファから立ち上がった。

「……あの様子じゃ、渡した履歴書すら目を通してないわね」

しのぶの眉間にぐっ、とシワが寄る。

「先生っ……いいかげんにしてくださいっ!」

しのぶが階上に向かって、いっそう声を張り上げた。

「……るっせぇな……」

という声が聞こえて、そのあと舌打ちとともに、階段を降りてくる音がした。

そして、ついに、栞は「先生」と対面することになった。

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