契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「……先生、まだそんなこと言ってるんですか?わたしだって、そろそろ東京に戻らないといけないんです。せっかく京都に来てるのに、夫のところにもろくに行けてないっていうのに」

階段の上から、しのぶの声がした。

京都の大学に籍を置く佐久間と、東京の大手出版社に勤務するしのぶは、結婚した当初から別居婚だった。結婚してもうすぐ五年になるが子どもがいないのは、多分にその理由からだ。

「……別に、行かなくていいだろう」

男の声が聞こえてきた。「作家」の声のようだ。

……男の先生やってんやわぁ。

栞はそれすら聞かされていなかったことに、たった今、気づいた。

……大丈夫かなぁ?何歳(いくつ)くらいの先生やねやろ?

「なにを言ってるんですか?わたしと夫を離婚させる気ですか?……とにかく、わたし、階下(した)に降りますからね。彼女をあまり、待たせるわけにはいきませんし」

しのぶが階段を降りてきた。

「はっ、どうせ家政婦なんだから、おふくろくらいの歳のオバサンなんだろ?
……なんで、そんなオバサンと二人っきりでこんな場所(とこ)に住まなきゃなんないんだよ?」

作家の声はとても不機嫌そうだった。

「それに、東京にいれば遊んでばっかりって言うんなら、せめてNY(ニューヨーク)とかLA(ロス)にしろよ?
なんで、よりによって京都なんだよ?
しかも、ここって……本当(ほんと)に京都かよ?」

……たぶん不動産登記簿謄本には「京都府」として記載されているでしょうけれど、実際には限りな〜く「奈良県」です。

と、栞は心の中で思った。

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