契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「でも……あなたは、そんなふうにほかの人に心を奪われている彼でも好きなんですね?」
栞は今日子をまっすぐ見て言った。
「彼と結婚したいんですね?」
「えっ……」
今日子の頬がほんの一瞬、さっと赤く染まった。
だが「女優魂」なのか、すぐに元に戻った。
……この人自身は「結婚したい」と思うてはる。
栞はそう確信して、深く肯いた。
「せやったら……とりあえず相手との合意のうえで婚姻届さえ出せば、こっちの物ですよっ!」
栞は両拳を握って、断言した。
「日本のお役所は、どちらか一方から不受理申出書を提出されている場合は別として、書類の不備等がなければ婚姻届を受理してくれます。
いったん受理されれば『人違いだった』とかの事由やない限り、ちょっとやそっとでは無効も取消もしてくれません。
その後の婚姻関係の解消方法は『離婚』となり、その場合、ご存知だと思いますがドロ沼の裁判離婚でもない限り双方の合意がなければ成立しません」
「……はぁ?」
今日子は「陰り」も忘れて、素っ頓狂な声をあげた。
「あっ、芸能人にたまにいてはるらしいですけど……年齢詐称とかしてはりませんよね?
婚姻届には絶対に戸籍どおりに記入してくださいね。『虚偽記載』による婚姻の取消の可能性がないわけやありませんからね」
「あ…あなたっ、なに言ってるのっ!
そんなのしてるわけ、ないでしょっ⁉︎」
「お相手も『芸能人』ですよね?
本籍地の役所に婚姻届を提出する場合は必要ありませんが、念のため戸籍謄本を用意して年齢等を確認しておいた方がいいかもしれませんね」
栞は親切心でアドバイスした。
これでも一応、婚姻届をすでに提出済みの「先輩」だ。
「だけど、結婚できたからと言って油断は禁物です。婚姻届はお互いの気持ちが魅き合わなければ、ただの紙切れなんです。
わたしも日夜、『たっくんをいつまでもつなぎ留める作戦』を決行中ですからっ!」
そう告げて、栞は胸を張った。
「……先生、『奥さま』から愛されてますねぇ」
池原が呆れ顔で神宮寺を見る。
「まあな」
神宮寺は得意げに、にやり、と笑った。