契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「……わかったわ」

やや俯き気味で、今日子はつぶやいた。

だが、すぐさま顔を上げて池原の方を向く。
いつもの神々しいほどの華やかな(オーラ)を放つ「女優・八坂 今日子」がそこにいた。

「池原さん、結婚を早めるわ。
今からすぐに東京に帰って、事務所の社長に直談判するつもりよ」

「ええぇーっ⁉︎」

池原がソファに()け反った。
今日子の「語り下ろし」は、入籍の発表と同時に全国の書店に平積みする計画なのだ。

「ほしいものは、一刻も早く手に入れないとね。そうと決まれば、こんな山奥でこんなことしちゃいられないわ。
……池原さん、帰るわよ。早く車を出して」

池原が借りたレンタカーで、最寄り駅からここまでの山道を来たのだ。

「ええーっ、今日こそ暗い夜道を運転しなくていいと思ったのに」

池原はこの「新婚家庭」に泊めてもらうつもりでいた。今日子がいる手前、断られないだろうとタカを括っていたのだ。


「拓真……突然来て、悪かったわね」

今日子がココハンドルを掴んでソファから立ち上がった。

「ねぇ、あなたたちは結婚式はしないの?
もしするのなら……絶対にわたしも呼んでよね」

オーバルのサングラスを掛けながら、女優らしくちょっと()惑的にそう言った。

そして、「えっ、待ってくださいよー」という池原を顧みず、今日子は背筋を伸ばし颯爽とした姿でリビングを出て行った。

< 194 / 214 >

この作品をシェア

pagetop