契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

神宮寺は後ろから抱きしめていた手をいったん(ほど)き、栞をくるりとこちらへ向かせた。

涙と(はな)でぐちゃぐちゃになった真っ赤な顔も、ひくっ…ひくっ…と吃逆(しゃっくり)をするように泣きじゃくる様子も、まるで幼い子どもだ。

やっぱり見られたくなくて顔を(そむ)けようとする栞の両頬を、神宮寺は大きな両手のひらで、すっぽりと包んだ。

……こいつ、ほんとにおれより五つも歳上か?

思わず、(とろ)けるような笑みが(こぼ)れる。

……かわいすぎるおれの『奥さん』は、いったいどれほどおれを夢中にして惚れさせる気だ?


「栞……」

神宮寺は栞を見つめた。

どれだけ大切に思っているか。
どれだけ一生(そば)にいてほしいと思っているか。

そんな想いを、どうやらまるでわかっちゃいない栞に……どう伝えてやろうか。

神宮寺は一生懸命「言葉」を探した。
なのに、ぴったりの言葉が見つからない。

……これでも、出す本のほとんどがベストセラーなのにな。

もともと、子どもの頃から書いて表現するのは得意だが、口に出して伝えるのは苦手だった。


だから、結局、すごくシンプルな言葉になった。

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