契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「たっくん、あたしのこと世間に『公表』するねんやったら、そしたら……もう、おねえちゃんにたっくんのこと、話してええのん?」

栞は、神宮寺からとっくにスマホを取り返していた。なのに、姉の(やや)に連絡を取ることに未だ二の足を踏んでいたのだ。

きっと連絡すれば、稍は栞の兄である智史との「結婚」を包み隠さず話してくれるであろう。
けれども、自分の方は神宮寺との「結婚」を包み隠さず話せないのだ。

「あぁ、もちろんだ。話してくれ。
考えてみれば、口止めさえきちっとしてくれるのなら、身内には隠しておくこともなかったんだよな。栞にとっては母親代わりのたった一人の姉さんなのに……悪かった」

神宮寺は栞の頭を、ぽんぽんとした。
彼にも兄がいるが、男兄弟なんて大人になると仕事が忙しいこともあって、この前会ったのはいつだっけ?という具合になりがちだが、その感覚で考えていた。

「でも、もう……口止めもする必要もないから。おれのことをちゃんと『紹介』してくれ。
東京に帰ったら、栞の姉さんと『兄さん』にも挨拶に行かないとな。
あぁ……実家(うち)にも栞を連れて行かなきゃな。そういえば、うちのおふくろ、女の子がほしかったもんだから、兄貴が奥さんになる子を初めて連れてきたときは、すっげぇ興奮してたいへんだったんだぜ」

神宮寺の大きな手のひらが、栞のポニーテールに結った髪を愛おしげに撫でたあと、チークを施さなくてもいつもほんわりと赤みのある頬に降りてくる。

神宮寺が自然と屈託のない笑顔になっていた。
その目尻がみるみるうちに下がっていく。

彼のアーモンドの瞳を見上げる栞の顔も、みるみるうちに笑顔が広がっていく。

神宮寺の顔が、ゆっくりと栞に近づいてきた。

そして、もう少しで、互いのくちびるが触れ合う、と思ったそのとき……


「たっくんっ、『善は急げ』やから、今からおねえちゃんに連絡して、結婚の報告するわっ!」

< 205 / 214 >

この作品をシェア

pagetop