契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「はあぁっ⁉︎ ……なんで『今』なんだよっ⁉︎」

これからこの「流れ」で栞を二階(うえ)の寝室に引っ張り込もうとしていた神宮寺が、驚きのあまり声を張り上げる。

「えっ、だって……おねえちゃんに言うてもええって言わはったやん?」

栞がきょとんとした顔で、こてんと首を(かし)げる。「()天然記念物」が炸裂だ。

「ほな、あたしがたっくんと結婚したことをおねえちゃんにLINEで『報告』してる間、たっくんは家計のためにがんばってお仕事して。
東京へ戻るまでに、できるだけたくさん(ぎょうさん)書かんとあかんえ」

栞はそそくさと神宮寺に背を向けた。
今日は金曜日なので、きっと明日は稍の派遣先の会社が休みのはずだ。
だから、積もる話があり過ぎて、少々長くなっても大丈夫だろう。ツイている。

背後で歯軋(はぎし)りする神宮寺を尻目に、栞はイケアの真っ赤なエプロンのポケットから、スマホを取り出した。
それから、タップを繰り返したあと、スマホを耳に当てる。

スマホからは姉を呼び出す、弾むような軽快なリズムの音が聞こえてきた……

< 206 / 214 >

この作品をシェア

pagetop