契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「おねえちゃん、今、大丈夫?」
栞はおずおずと姉に尋ねた。
『大丈夫やけど、どしたん?』
一日の仕事を終えたあとだからであろうか。
その声には疲れが滲み出ていた。
いくら大手の証券会社に勤務しているからとはいえ、身寄りのだれもいない東京でなにもかも一人で賄っていくのはたいへんだろう。
しかし、意を決して告げる。
「あのなぁ……おとうさんが……」
どうしても、一拍ほど間が空いてしまう。
「再婚するって、言うてはる」
しかし、勇気を振り絞って告げたにかかわらず姉は、
『ん……おとうさんかってギリギリ五十代やし、長いこと別居してはったし、仕方ないんちゃう?
……栞ちゃんは反対なん?』
と、悠長なことを言っている。
たぶん老後のことなんかを考えて、同世代の女性とこれからの人生を歩んでいくのではないかと、脳内お花畑なことを夢想しているに違いない。
……まぁ、おねえちゃんには、まだなぁんにも言うてへんからなぁ。