契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

✿告解✿


神宮寺は別に「この世には『生まれてきたらあかんかった子』なんていない」というキレイゴトを並べる気はなかった。

だが、涙を浮かべるでもなく淡々と話す(しおり)を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。

だから、行為(セックス)のあと、またGUのルームウェアを身につけていた栞の肩をぐい、っと抱き寄せた。

「たっくん……あたしの母は……」

アメリカンイーグルのスウェットを着た神宮寺の胸に頬を寄せながらも、栞はやはり淡々と、まるで問わず語りのように話を続けた。


栞がまだ物心つく前に、母親は家族で住んでいた家から出て行った。

「……と言うても、阪神・淡路の震災に()うて、家は跡形もなく倒壊したそうですけど。
あたしは赤ちゃんやったんで、九死に一生を得たことをまったく覚えてませんけどね」

神宮寺にとっては生まれる前の出来事で、自分にとっての「震災」は東日本大震災だから、阪神大震災に関しては感覚的には「歴史」になっていた。

つい先刻(さっき)まで思うままに抱いていた目の前の相手が、まさかそんな過酷な状況下で生き延びていたとは、思いもよらなかった。

神宮寺の栞を抱き寄せた手に力が篭った。

とにかく……栞が生きててくれていてよかった、と素直に思えた。

< 96 / 214 >

この作品をシェア

pagetop