獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
アメリが案内されたのは、居館の中でも最もみすぼらしいと思われる部屋だった。


薄汚れた壁に、カーテンすら吊るされていない小さな窓。家具は、鉄製のベッドに椅子が一脚と、数着のドレスがどうにかしまえる箪笥だけだ。


使用人にあてがわれる部屋の方が、もっとマシなのではと思う。


自分の婚約者にこんな部屋をあてがうなんて、やはりあの王太子はどうかしている。婚約者を手厚くもてなそうという心意気など、全くないのだろう。





「でも、悪くないわ」


アメリはベッドに腰かけると、ふう、と息を吐いた。だだっ広いだけの王宮を歩き通しだったので、こじんまりとした部屋にいると妙に落ち着いた。


木製の飾りけのない椅子や機能性だけを重視した箪笥は、母と住んでいた家の家具を思い出し、気持ちが温かくなる。小窓から入った光が、ベッドに一筋の光を落としていた。


アメリは手を伸ばし、右手の薬指にはめた指輪を光にかざす。途端に輝きを増す、金糸雀色のガラス玉。薄暗い空間だからこそ、よりいっそう輝いて見えるのだ。自然と、アメリの顔には笑みが浮かんでいた。


「気に入ったわ」


その時、コンコンとドアをノックされた。開ければ、レイモンド司祭が辛そうな面持ちでドアの向こうに立っていた。






「アメリ様、申し訳ございません。このような粗末な部屋しかご用意できなかったことを、お許しください。殿下のご命令でして、私にはどうすることも出来ないのです」


顔を合わせるなり、深々と頭を下げるレイモンド司祭。アメリは、慌てて声を掛けた。


「レイモンド様、お顔をお上げくださいませ。私は、このお部屋のことを何とも思っておりません。それどころか、気に入っているくらいですわ」


にこりと微笑み掛けると、銀フレームの眼鏡の向こうでレイモンド司祭は瞠目した。









< 13 / 197 >

この作品をシェア

pagetop