獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「この部屋が、気に入ったとおっしゃるのですか?」


「ええ。静かなところも、窓から入る光の加減も気に入りました。もともと、豪華な部屋は似合わない性分ですの。この宮殿のどの場所よりも、落ち着くくらいですわ」


まじまじとアメリの顔を見つめるレイモンド司祭は、やがてアメリが心の底からそう思っていることを感じ取ったようで、表情を緩めた。


「それは安心いたしました。この部屋を見るなり腹を立て、逃げ帰った令嬢も二人ほどいましたので」


「二人も?」


なるほど、とアメリは思った。豪華な家具に囲まれもてはやされて育った令嬢にしてみれば、こんな部屋で寝起きすることは地獄に等しいのだろう。アメリの姉たちもそういうタイプなので、分からないでもない。


「とにかく、ご心配なさらないでください」


アメリが再び笑みを見せれば、レイモンド司祭は穏やかな眼差しを向けてくる。






「あなたは、お強そうだ。これまでの婚約者様方とは、雰囲気が違う。残念ながら、殿下はあなたをお気に召さなかったようですが……」


レイモンド司祭の声が、沈み込む。アメリは、彼女を見るなり『気に食わないな』と言ったカイルの声を思い出していた。


カイルも姉たちと同様、平民出のアメリの品のなさが癪に障ったのかもしれない。

それからレイモンド司祭は、城での暮らしの注意事項などを、丁寧に聞かせてくれた。


「食事の時は呼びに参りますので、それまでゆっくりなさってください。明日からはもっとお辛いことが待ち受けているかもしれませんが、困った時にはいつでも私に声をかけてくださいませ。出来る限り、あなたのお力になりますので」


レイモンド司祭は、最後に再び辛そうな表情を残して部屋を去って行く。


嫌な予感を覚えつつ、一人になった部屋で、アメリはベッドに身を横たえた。
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