獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
ぞくりと背筋が凍るような、冷たい声だった。怯えを隠せていないアメリをさらに嘲笑うかのように、鎧兜の向こうから微かな笑い声が聞こえた。


まさに、悪魔の笑い声。


顎先から手を離すと、立ち尽くすアメリをそのままに、カイルは悠々とその場を立ち去る。


通りかかった召使いたちが、悪魔の異名を持つ王太子に怯えるように立ち止まっては、頭を下げていた。






カイルの姿が見えなくなってから、「申し訳ございません……!」とレイモンド司祭が大仰に謝ってくる。


「殿下は、昔からああいうお方なのです。人を寄せ付けず、悪態を吐いてばかりおられる。神の教えを賜った身としては、他人を無下に扱ってはいけないと幾度も諭したのですが、全く聞く耳を持ってはくれないのでございます。陛下も私どもも、ほとほと手を焼いておりまして……」


レイモンド司祭の言葉を耳にしながら、アメリは先ほどのカイルの声を思い出していた。何て、冷たい声なのだろう。温もりの欠片もない、尖った空気。全力で、アメリを拒絶していた。


(怖い。逃げ出してしまいたい)


あんな氷の刃のような男と一生を添い遂げるなど、到底考えられない。


込み上げてきた気持ちを呑み込もうと、アメリは右手にはめた指輪に触れた。


帰りたくても、アメリに帰る場所はないのだから。


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