獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
アメリの意識は、いよいよ限界を迎えようとしていた。


ナイフに毒でも塗りこめられていたのか、傷口だけでなく全身が燃えるように熱い。


最後の力を振り絞ると、アメリは震える手を伸ばし、愛しい金糸雀色の髪の毛に触れた。


「カイル様、約束してください……。古今類をみないほどの、この国の立派な君主となることを……」


今にも消えてしまいそうなほど不安げな天色の瞳に、優しく微笑みかける。


「近い未来、男たちはあなたを英雄と称えるでしょう……。女たちは皆あなたに恋をし、子供達は……あなたに憧れる……。あなたは……、そういう存在になるでしょう」


彼は、選ばれし人間だ。彼が治める限り、この国はどこまでも強大になるだろう。


「でも、不安になった時は……私のことを思い浮かべてください……。あなたの弱さも孤独も、全て私が受け止めましょう……」


私の、愛しい獣。英雄のあなたも愛しいが、一人の孤独な男としてのあなたが、たまらなく愛しい。






「アメリ……」


天色の瞳から溢れた涙が、アメリの頬に落ちる。


「アメリ、死ぬな。死なせてなるものか……」


「カイル様……」


「アメリ……!」


嗚咽にも似たカイルの呼び声を耳にしたのを最後に、アメリの意識は途切れた。




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