能ある狼は牙を隠す


ぱたぱたと足音を立て、九栗さんが駆けてくる。


「はい。新聞紙と、段ボールは小さいのしかなかったんだけど……」


彼女が差し出してくるのを眺めていると、不思議そうな眼差しを向けられた。


「白さん? どうかした?」

「あっ、ううん! ありがとう!」


我に返って声を上げる。
狼谷くんのブレザーを腕にかけて、それから新聞紙と段ボールを受け取った。

九栗さんと労い合ってから、足早に教室を後にする。

喧騒が耳に遠い。静かな廊下を一人歩きながら、私は自分の心臓の音がやけにうるさいことに気が付いていた。


『白さん、いつも狼谷のこと見てるじゃん。違った?』


本当に? 私は狼谷くんのことを見ていたの?
だとしたら完全に無意識だ。決して見ようと思って見たわけではなく――


『前に約束したよね? 俺のこと、ちゃんと見てくれるって』


いや、狼谷くんとは約束をしたんだった。だから私が彼を見るのは、なんらおかしなことじゃない。むしろ推奨されるべきことだ。

でも、だったら。――どうして私はこんなに焦っているんだろう?

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