能ある狼は牙を隠す


津山くんが狼谷くんの肩を組んで、二人が揃って歩き出す。

その背中を眺めていると、横から脇腹をつつかれた。


「ねえちょっとちょっと。いつから狼谷くんと挨拶するほど仲良くなったの?」


カナちゃんが訝しげな顔で聞いてくる。
私は思わずため息をついて、前から横に視線を移した。


「前も言った通りだよ。友達だからね……別に特別仲良いわけじゃなくて」

「いや、だってあんなイケイケのスクールカースト上位層が私たちに挨拶するなんて天変地異でしょ」


そんなんで勝手に天変地異を起こされたらたまったもんじゃない……。
カナちゃんの発言にそんな感想を抱いていると、あかりちゃんが口を挟む。


「私たちっていうよりかは羊にだけだったけどね。羊以外はちらりとも見てなかったよ、あれ」

「あれって言わないの! 指もささない!」


怖いものなしなのかな!?
あかりちゃんの人差し指を叩き落として、ようやく一息ついた。

確かに狼谷くんとは委員会が同じだから、他の人より関わる機会が多いし仲は良い――と、思う。
ただ本当にそれだけというか、それ以上でも以下でもない。

私は友達で、カナちゃんとあかりちゃんはクラスメート。それだけの違いだ。

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