能ある狼は牙を隠す


慌てて言い返すと、津山くんは耐えかねたように吹き出した。


「や、ごめ、冗談……さすがに自分でやって?」

「い、言われなくてもやりますッ!」


バカにされた! 多分だけどバカにされた!

憤慨しながら顔を背けてティッシュを取り出すと、散々笑い倒した津山くんが「はー」と息を吐いた。


「鼻血って……高校生にもなってティッシュ鼻につっこんでるって……」

「津山くん!? 怒るよ!?」


だってしょうがないじゃん、鼻血なんだから!
訳の分からない怒りを堪えながら、私は新しいティッシュで栓をする。


「ごめんって。何でそうなったの?」

「え、えっと、とにかく相手のコートに返さなきゃと思って……」


気持ちが前のめりになって、それにつられて体も前に出してしまった。ボールの落下点はもっと後ろだったのに。

それを正直に話すと、津山くんはまた盛大に笑い転げた。


「いや最高すぎるでしょ……天才?」

「津山くんっ!!」

「普通もうちょっと恥じらうよね、鼻血出たらさ……」


笑いすぎて苦しい、とお腹を押さえる彼に、私は口を曲げる。
津山くんは姿勢を正すと、椅子ごとこちらに近寄った。


「ど、どうしたの?」

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