君と笑顔の日
耳に聴こえるのは心が弾むような陽気で楽しい音楽。
広いテラスには人がそこそこいて、子連れもいるし僕たちのようなカップルもいる。
テラスから覗く先には行き交う人々の楽しそうな足取りがあり、もしくは、これから数十分後に始まるパレードの場所取りに完全装備で座り込む人々も見える。
平日でこの賑わい、休日の賑わいは相当のものなんだろう。さすが有数のテーマパーク。

僕の目の前で今、食事の写真をパシャリと数枚撮り終えて悶ているのは陽奈子だ。
可愛いものが好きで、美味しいものが好きな陽奈子の大好きなテーマパークに今日は遊びに来た。
陽奈子はひとりでも来るくらい好きな場所で、今日のアテンドは任せきりだ。
僕はめったに来ないから、見るものが物珍しくこころなしか浮かれているのは実感している。

「かわいい……可愛いのに、食べられないくらいかわいいのに」
「その可愛いのと俺とどっちが好き?」
「その質問が本気のやつなら一発アウトだからね」
「わかってるよ」

くくくっと、笑いを奥に噛み殺して、真剣な様子の陽奈子を見守る。
幾度となく来ていて、きっと食べているはずなのに真剣に悩むその様子が面白い。
その後、僕は可愛いキャラクターを模したハンバーガーにかぶりつく。うん、美味しい。
テーマパークのご飯としてでなく食べたとしても美味しい。
一通り可愛いと悶た後、バーガーにかぶりついた陽奈子は、美味しいと目を細めていた。
時間を気にしながら食事を進めていると、音楽は通常のBGMからパレードの音楽へと差し替わり、間もなくキャラクターたちもやって来るのかと少しソワソワしていると陽奈子が僕を見てプッと吹き出した。

「安心してよ。もうすぐで来るけど、ここは特等席だよ?実は」
「そうなの?」
「そうなんです。パレードは反対側から来るから、時間通りにスタートしたとして10分後くらいにここらへんに来るのね?で、実はここあんまり知られてないかもしれないけど目の前がパレードルートなんだよね。ちょっとルートから距離はあるから見にくいって言う人もいるんだけど、ガチじゃなければ問題ないくらい見えるから」
「そうなの?」
「そうなんです。あ、ほらあっちからフロート来てる!」
「本当だ!」

どうやら本気の人達には有名なスポットがあるらしい。“ガチ”な時はひとりの時にしっかり楽しんでるから気にしないでね、と付け足しをおおらかに言う。

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