君と笑顔の日
雑居ビルの中に入っているアジアンな居酒屋の片隅で笑う、有象無象の中に僕等はいて、ただ生きている事になんの疑問も持つことなく、当たり前の明日をいつだって待っていた。
それは大袈裟なことなんかではなくて、起きて寝て起きたら誰の元にも朝はやってくる。
来ることが当たり前の「明日」。
そこに疑いなどなく、それが良い日であろうがなかろうが、変わることなく時は刻まれていく。
今この時も、確実に。

「大石くんって、なんていうか。涼しい顔して小器用に生きてる感じがするよね」

まだ慣れない酒の席でそう言ってきたのはかつての高校の同級生、芦原陽奈子だった。

「……小器用?」
「なんでもそつなくこなしていくっていうか。嫌味ではないんだけど」
「嫌味とは受け取ってないけど」
「ならよかった!」

にこっと笑うその笑顔に惹かれて、連絡先を交換したのは高校を卒業して数年後の同窓会での出来事だった。
二十歳の節目を迎えた我々は合法的にようやっとお酒が飲めると同窓会を企画し、今に至る。
若い盛りの酒宴の場というので、周囲はひと盛り上がりしている。
大学生、社会人、各々の立場から少し時を巻き戻したかのように気のおけない友人達と昔は酌み交わせなかった酒を交わす。
羽目を外しすぎないよう、クラス全員ではなくまだ連絡を取っている仲間内での同窓会とあって、盛り上がりながらも酒を強要したり、潰れたりというところは見られない。
そんな周囲の様子を見ながらマイペースに飲んでいると、陽奈子に声を掛けられたのだ。

「ちゃんと雰囲気楽しんで、けど、どこか一歩冷静でさ?本気で楽しかった事とか、本気で悔しがることとか。ないことは無いんだろうけど、それを表に出さないでいる感じがするよね」
「そうかな?」
「どうだろ?」
「自分で言っといて、なんだそれ」
「表に見えるだけが本当じゃないことは分かってても、見えた方が得なこともたくさんあるよねぇ」
「それが出来れば苦労はしないよ」
「やっぱ自覚あるじゃん」
「話に乗っただけだろ?」
「でもね。表に出さないってことも本当はすごく難しいことだから、すごいと思うよ。どっちもすごい!」

そう言い切る彼女は、僕からしたら眩しいくらい本心に忠実で、思えば学生時代も彼女の周りには人が絶えなかったなと思い返した。




それからさらに年月を経て、僕らの付き合いは3年になろうとしている。
僕は未だに、彼女に惹かれ続けている。

これは。

――生きることに割と慎重だった僕と、生きることを謳歌する陽奈子の物語である。





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