【完】たばこ
分かればいいの。
ほんと、馬鹿な生き物。


心の中で小馬鹿にしつつ。
余裕な笑顔を表面に浮かべた。


「早速行きましょ。」


「ああ。」


短いやり取りのあと、私たちは歩き始めた。


私とあまり変わらないくらいシンプルな格好をしている翼。
風に吹かれて鼻孔をくすぐる翼の匂いは。
ふわり、たばこの匂いがした。


たばこは好きじゃない。
不衛生なものを摂取する人の気持ちが分からないから。
翼と出会うまではそう思っていた。


でも今は。
この匂いが嫌いじゃない。
たばこを吸う横顔の美しさに気付いてからは。
たばこに対しての偏見を抱くことはなくなった。


人の隣を歩くのはあまり好きではないのだけれど。
翼と歩いているのは悪くない。
話すことに精神を削らなくてもいいから楽だ。
何か話さなくちゃいけない使命感に駆られる事もなく。
黙って歩く空気感が心地いい。


あと少しで展覧会の場所につくと言う所で。
翼の歩みが急に止まった。
不審に思って顔を見上げると。
今までの、なににも興味を示さなかったあの瞳が。
大きく見開かれていた。




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