【完】たばこ
初めて。
ここで時間を共有するようになって初めて。
私たちはお互いに干渉した。


触れることなんてなかった。
今まで飴を渡す時にすら相手に触れることはなかった。


翼はツクリモノかもしれない。
ロボットかもしれない。
そうだったとしても私は気付かないくらい。
私たちの関係は淡白なものだ。


それが今。
その概念が覆された。
翼が私に干渉した。


「お前にやるよ。」


「……どうも。」


屋上に吹き抜ける風で冷たくなった翼の手。
ひんやりとした手は角ばっていてごつごつしていて。
掴む力は強くて。
男で、人間で、生きている事を私に実感させた。


手の平に飴を落とした後。
翼は何事もなかったかのようにまたたばこを吸い始めた。


私も何事もなかったように屋上を後にし、飴を口の中に放り込んだ。


……顔熱い。


握られた所の温もり、感触が消えない。
いっそのこと痕になればいいのに。


そう思った。



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