プワソンダヴリル〜甘い嘘は愛する君だけに〜
「まぁでも男なんてほんと何考えてるかわかんないんだからなー、一人で家に上がるのはちゃんと好きな男のとこだけにしとけよ」
「っ、うん…」

凛子に動揺が伝わらないように気持ちを落ち着けてから、気まずくなりそうになった空気をかき消すように明るく声を出した。

「…」
「ん?なんか言ったか?」

自分の分の空になった缶を持って立ち上がりキッチンに向かう途中、小さな凛子の声が聞こえた気がした。
けれど彼女は「なんでもない」と言ったから、それ以上の追及はしないことにする。

「ほら、1本飲んだらもう帰れよ。明日遅刻するとかさすがにシャレにならねーぞ」
「…うん、だよね!」

俺の言葉に返事をしてから、一気に残りの缶ビールを飲み干す凛子。
そして「また明日ね」となんだかぎこちない笑顔を残し、隣にある自分の部屋へと足早に帰っていった。


「何やってんだ、俺…」

扉が閉まり凛子の背中が見えなくなった途端に、情けないくらい大きなため息を吐きながら頭を抱えて座り込む。
信じられないものでも見たようなあの瞳と、肩を震わせた凛子の姿が頭の片隅から離れない。

受け入れてもらえたら、そんな淡い想いがただの自分勝手な希望でしかなかったこと。
それよりも前に、自分が男として意識すらされていなかったのだということを思い知らされただけだった。

安心しきって無防備な姿で傍にやってくる彼女にとって俺は、スタート地点にも立っていなかったのかもしれない。

「…明日からどうすっかな」
コップに入れた水を1杯飲み干して、時計に目を向ける。

もう日が変わる。エイプリルフールは今日でおしまい。
明日になったら…今日の出来事はただの冗談へと変わるのだろうか。

いくら考えてもなにが正解かだなんてわからない気がして、そこで思考を遮断するように目を閉じた。
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