プワソンダヴリル〜甘い嘘は愛する君だけに〜
「ありがとうございました!」

今日も笑顔で接客をしながら、合間にこそっと窓際に目を向ける。
正確にはいつも決まって窓際の席に座る…憧れのあの人に。

私が働いているのは、都心にある高層ビルの1階に入っているカフェ「macchiato(マキアート)」。
自分で言うのもなんだけど、なかなかオシャレで可愛い人気カフェだ。

そこに週に何度か来てくれるスーツの男の人。

適度にセットされた少しパーマがかった黒髪、知的な眼鏡が引き立たせている切れ長の瞳、形のいい唇にすっと通った鼻筋…そんな彼の整った顔は、横顔が一番綺麗なんじゃないかと思う。

あぁ今日もかっこいい…

「真崎ちゃん、お客さん待ってるから」
「え?はっ、すみません!」

「あはは」と楽しそうに笑う常連のおじいちゃんと苦笑いを浮かべる店長の視線に挟まれながら、止まってしまっていた手を急いで動かしていく。

名前も歳も知らない。何をしている人なのかも知らない。
だけどクールな外見とは対照的に、いつも彼は甘いココアパウダーのかかったモカを頼む。


「会社では隠してるけど、実は甘いのが好きな可愛い人なのかなって」
「それ、情報でもなんでもなくてあんたのただの妄想だから」
「今日も厳しいお言葉身に染みいります、リサさん」

休憩時間のスタッフルーム。
先輩のリサさんと何気ない話をして過ごす、大好きないつもの時間。

今日の話題は私の憧れのあの人について…なのだけれど。
改めてどういう人なのかと聞かれている今、私に答えられる情報は本当に乏しいものだった。

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