拾った彼女が叫ぶから
 ますます頭の中が甘く痺れて、艶めいた吐息になって唇からこぼれていく。
 それが合図かのように唇が離れる。西の空が茜色をまとい始める。その光を受けてか、ルーファスの唇がさっきよりも色っぽい。きっと彼女の唇も今は腫れぼったくなっている気がする。
 今更ながら、大胆なことをしてしまった。じわりと首筋が熱くなる。絡めたままの指も、抱き寄せられた腰も。

 ルーファスがマリアの肩口に顔を埋めたとほぼ同時に、ちりとその場所に痛みが走る。鎖骨の上の柔らかなくぼみの辺りに、きっと今しるしをつけられた。

「あっ、うそうそっ、やだっ」
「何で?」
「何でって、こんなの見えちゃう!」
「見せたら良いじゃないですか。その方が僕も安心です」
「違う違う! 私が安心できない! お母様に見つかったら、何してたのって聞かれるから!」
「何ってそりゃあここまできたら後は」
「ストップ!!」

 慌ててルーファスの唇に手を当てる。すると今度はその手のひらにちろりと舌を這わされた。

「んっ」
「マリア……」

 唇と手のひらのほんのわずかな隙間を、マリアの名前が甘く抜ける。


「まだまだ、今日はマリアの気持ちを教えてもらいますからね」

 マリアはたまらずぶんぶんと首を振った。息も乱れる。
 ルーファスの追い詰め方は周到で、とうにマリアの気持ちなどわかっているだろうに笑顔で更に迫ってくる。
 全部露わになったら、見透かされたら、あられもなく叫んでしまう。




 
「ナァー、ナァー」

 不意にすぐ近くで聞き慣れた鳴き声がして、心臓が止まった。
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