拾った彼女が叫ぶから

乗り込め

 自分でも何をやってるんだとツッコミたい。
 だけど気付けば口走ってしまった。その結果がこれだ。間違いなく自分が撒いた種である。

 今マリアは、王家から借りた馬をトゥーリスへと走らせていた。イアンと共に。
 彼女自身は馬を操ったことなどないため、最初は辻馬車を乗り継ぐつもりだった。だが、話を聞いたイアンが面白がって「もちろん俺も行くから!」と言い出し、「馬車よりも馬の方が速いよね?」と畳みかけたのである。

「書状なんかより、俺を連れて行った方が何かと便利だって!」

 さすが王族である。やることが早いというか、人に有無を言わせず事を進めるところはやはり違う。
 そしてマリアはマリアで、くすんだ桃色のワンピースから乗馬服に着替えさせられた。男物と見まがうような、白のブラウスとベージュのトラウザーズ。ブラウスは詰襟で、首の付け根辺りからフリルがあしらわれている。黒の上着は長く膝まであるが、乗馬用のため前が分かれた実用的なものだ。なぜか張り切りだした王宮付きの侍女に、琥珀色の宝石をはめたブローチまで首元に飾られる始末だった。

「よし、これで修羅場もマリアちゃんの勝ちだな!」

 などと穏やかではないことを嬉々として言うのが、正直なところ迷惑だと思ってしまうのはいけないことだろうか。勝ち負けを競いに行くわけでも、喧嘩を仕掛けに行くのでもないはずだ。イアンが何を期待しているのかと思うと空恐ろしい。寒気がして思わず身体が震える。
 それでも、彼のお陰で顔パスで国境も越えられたのだから頭は上がらない。
 
「あの、パメラ様というのはどこの御令嬢なのですか? あまりトゥーリスのことは知らないものですから」
「いや、俺だって知らん」
「えっ? じゃあどこに行けば会えるのかも──」
「知らん」
「ええっ!?」

 あははと軽快に笑うイアンと反対に、マリアは暗澹とした気分になった。これではトゥーリスに着いてもルーファスに会うことなど不可能ではないか。いくらルーファスは馬車を使っていて、今なら馬で追えば何とかなると言われたとしても、だ。
 
「とりあえず国境までいけばわかるよ。あそこには国境警備の騎士団が詰めているし、いくらお忍びでもそこで訪問先を告げなきゃならんからな」
「……はい」

 「まあ、俺に任せとけって!」というイアンの言葉は、精神衛生のためにも聞こえない振りをした。
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