拾った彼女が叫ぶから

「へえ、襲撃が。いつですか?」
「はっきり姿が見えたのは国境を越える直前だな。だが、まいにち宿をうろついてたぞ。あんなやつら、俺だけで充分だけどな」

 宿にまで不審者がいたのは初耳である。マリアはひそかに驚き耳をそばだてた。ところがルーファスにはまったく驚く様子がない。常に笑顔の彼だからと言えばそれまでだが、それにしても不思議なほど冷静だ。彼がイアンに護衛を付けたらしいことといい、狙われることが日常的になっているのだろうか。
 ──でも兄弟で護衛をやり繰りするなんて、何というか意外だけど。

護衛たちが女王の指示により退室した。

 置いていかれた疎外感からふと目の前を見ると、エミリアがじっとこちらを注視していた。目が合った途端にマリアの背筋はぴんと板を当てられたようになり、それを目にした彼女がころころと笑った。

「一途なのね、あなた。どこまでもルーファスについて行くんですって?」

 ほんのりから真っ赤に頬の色がさっと変わったのが自分でもわかった。まるで何かの化学反応みたいに。マリアはさっきの自分の言動を思い返して心の中でもだえた。

「さっきのは、その、何といいますか言葉のあやというもので……」
「あら、じゃあ嘘だったの?」
「いえ! そのようなことは……ですが感情に任せてしまったことは淑女として恥ずべき行いでした。申し訳ございません」
 
 エミリアがカップに口をつけるのを目の端にみとめながら、マリアは深く頭を垂れた。
 と、そこでイアンと話し込んでいたはずのルーファスが、はっとした。まじまじと彼女を覗き込む。

「マリア、僕について来てくれるんですか?」
「え、ええ。そう言ったじゃない」
「どこまでも?」
「う、うん、それがどうかしたの」
「覚悟は?」
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