拾った彼女が叫ぶから
「ですが、マリアとならできる気がするんですよ」

 ずるい。その満面の笑みはずるい。思わず口をへの字に曲げてしまう。

「そう言われたって、急すぎて心の準備も何も」
「先日、御母上にはお伝えしておきましたから、御家族のことは心配しないでくださいね」
「えっ」

 思わず声が裏返った。胸の前できゅっと夜着を掴んでいた片手を取られる。節ばった、一回り以上大きな手がマリアの手を包み、二人の指が絡まった。労るような、なだめるような一連の仕草に、だけどマリアの心臓は乱れ打ち始める。

「それに既に御父上にも書状を出しています。また改めてお伺いするつもりではありますが」
「い、いつの間に」
「マリアがあのとっておきの場所に連れて行ってくださったときには、すでに話をしていました」
「ひっ」

 マリアは思い返して息を呑んだ。
 あのとき彼女の母親はやけにはしゃいでいた。美麗な青年が来たからだろう位にしか考えていなかったのだが、彼女と結婚する意志を伝えていたのなら、母親がはしゃいでいたのは当然のことだった。
 もう、あのときからルーファスには全て仕組まれていたのか。一人で勘違いをしてここまで追い掛けてきてしまったなんて、自分が滑稽すぎる。

「言ってくれたら良かったのに」
「こっちのケリをつけてからと思っていたんですよ。口約束よりも、実行できるだけの環境を整えてからの方が安心できるでしょう?」

 それは、いわゆる外堀を埋めるというやつではないのか。今だって、マリアがここに来ることがなければ、彼女の知らないうちに事態が進んでいたかもしれないのだ。
 マリアはぶるりと大きく身を震わせた。

「寒いですか?」
「い、いいえっ」
「ほら、素直になるんじゃなかったですっけ」
「そんなこと言ってないわよ」
「でもほら、気持ちを伝えるようにするって言いませんでした?」
「うっ……言った……ような、気もします……」

 ふっとと笑うルーファスを前に、マリアは項垂れた。繋いだ手ごと引き寄せられる。暖炉の薪が爆ぜる音がするのと、繋いだ手と反対の手がマリアの顎から耳のラインを固定するように添えられたのは同時だった。

「マリア。愛しています」

 熱のこもった目にとらわれた。
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