最後の男(ひと)
プロローグ
呼び止められて振り返ったあなたの横顔。

種々雑多な人混みの中から、私を見つけた時の半信半疑の驚いた顔。

眩しいものでも目にしたみたいに瞼を細めて、みるみるうちに綻んだ優しい笑顔。

磁石で引き寄せられたみたいに、吸い寄せられたみたいに駆け寄って、人目も憚らず抱きしめてきた腕の強さ、背中の広さ。ぬくもり。スーツリフレッシャーのシトラスの香り。


瞬間、瞬間を覚えている。

いつの間にこの人をこんなに好きになっていたんだろう。


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