最後の男(ひと)
「それで、その伝説の人、一香先輩の教育担当だったって本当ですか?」

どういう訳か、里中には一足先に噂話が飛び込む。

「そうよ。仕事ができて語学も堪能で、側にいてとてもいい勉強になったと思ってる」

周知の事実だから、特に隠すことでもない。町屋先輩が日本にいた頃は、間違いなくダントツで社内の人気ナンバーワンだった。出世株の最後の若手イケメン独身男性と言われていて、私が入社した頃には女子社員たちの争奪戦が既に繰り広げられていた。仕事ができる男は、女のあしらい方も上手で、一人に肩入れすることなく女性みんなに平等に優しい人で、その代わり、誰のものにもならなかった。

そんないい男と入社一年目から間近で過ごした私は幸運だったけれど、その分目が肥えてしまったのは予定外だった。

里中だって、ノリは軽いけれど仕事ができない訳じゃない。飲み込みも早いし要領がいいから、あと数年後には町屋先輩と同様に扱われる可能性もある。

ただ残念なことに、まったく私の食指が動かない。自分のことを良いと言ってくれる相手に決めるのが結婚の近道だと、6年間の婚活から漸く卒業したばかりの先輩から聞かされたけれど、今は仕事が楽しいし、まだまだ遊び盛りの20代前半の男となんて、真剣な恋愛は望めない。

< 7 / 53 >

この作品をシェア

pagetop