7年目の本気

優しくしないで

私が帰宅して、床に就いた約1時間後、
 匡煌さんも帰ってきた。

 とっさに目を瞑った私の傍らに立ち、
 髪を撫でながら身を屈めてきて顔を
 覗きこまれた。


「……寝た、のか?」


 その声に答えず布団に潜ると、
 何も言わず彼はシャワーを浴びに出て行った。

 どうしよう、凄くドキドキする。
 触れられただけで、声を聞いただけで、
 胸が苦しくて息もしずらい。

 やっぱり私は彼が……匡煌さんの事が好き、なんだ。
 好きだから、苦しい……。

 シャワー上がりの匡煌さんが、いつものように
 私に傍らへするりと入って来た。


「―― かず、起きてるんだろ?」

「……寝てる」


 何とか、普通に答えると ――


「そうか、寝てるのか」


 含み笑いを漏らしながら、
 私の体を背後から抱きしめてきた。
 その後の流れは容易に想像できたので、
 私は身を捩った。


「明日は早番だからダメ」


 そんな私の言葉など完全シカトで
 私の項に熱い口付け。


「はぁ ―― っ」


 それだけでダイレクトに体の中心が火照る。


「……体、熱いな。今のキスだけで感じたか?」

「調子にのるな」

「今日の和巴さんは可愛くない。よって、お仕置きが
 必要だな」

「バカ匡煌」


 強引に向きを変えさせた私にキスをしてきた。

 荒々しく、貪るような口付け。

 拒めなかった……嬉しかったから。

 互いを貪るように、体を求め合い。
 絡め合った。
  
  
  
 早朝6時半。

 隣に眠っている匡煌さんを起こさないよう、
 ベッドからそうっと抜け出て、シャワーを浴びる。

  
 こんな生活、そうそう長く続けられる訳がない。

 各務家の子息が女子大学生に入れ込んでる
 なんて公になったら。

 宇佐見匡煌という男を世間の冷笑に晒したくない。

 一般庶民ならまだしも、
 匡煌さんはいずれ広嗣さんの右腕になる人なんだ。

 当然、世間の関心度だって高いだろうし、
 風当たりも強いだろう。
 身分違いの恋愛なんて、格好のスキャンダルだ。

 それだけは絶対避けなければいけない。

 バスルームから出勤の身支度でLDKへ出ると、
 朝食を用意して匡煌さんが待っていてくれた。


「あ、起こしちゃってごめん」

「いや、俺も今日は朝イチで接待ゴルフだ」

  最近、匡煌さんはあのパーティーへ出席した
  辺りから各務グループ幹部としても
  会合への出席やら接待が多くなっている。


「―― ごちそうさまでした。じゃ、お先に出るね」

「おぉ、気を付けて」


 匡煌さんと”行ってきます”のキスを交わし、
 出勤。

 いつもと変わらない、そんな1日の始まりの
 ハズだった……。 
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