彼は私の全てだった
bitter and sweet
中村さんと私の距離はそれ以上
縮まる訳でも離れる訳でもない。

中村さんはそんな簡単な人じゃないとわかってる。

職場の部下にすぐに手を出す様な人だったら
多分私は中村さんの事を好きにならなかった。

すごく大人で優しくて
手を伸ばせば届きそうだけど
決して自分からは手を出したりしない感じだ。

近くて遠い人…そんな言葉が中村さんには似合う。

そして私はシュウの目もあって何となく中村さんと親しげに話すことに抵抗を感じるようになった。

悔しいけど…
まだシュウを忘れてる訳じゃない。

嫌いになって別れたわけじゃないから
気持ちを整理するのは難しい。

何も言わずに姿を消した理由を知りたくて
別人みたいに変わってしまったシュウを見て
なおさらそう思ってしまった。

その事をシュウに聞けたらきっと楽だろうけど
決してシュウは話さないだろう。

噂で聞いたのは同級生の男の子にシュウが長野にいたという本当かどうかもわからない話しだけだった。

あの時、私がシュウと付き合っていたから
みんなからシュウの事を聞かれる立場だったのに
私は何一つ知らなくて
みんなから同情されたくらいだ。

シュウの事を最初はみんな気にかけていたが、
ひと月もするとシュウが居ないのが当たり前になって
私一人が取り残された気がした。

あの時の思いはまだ忘れてない。

目の前にいるシュウはあのシュウとは違う人だと信じたい。

私はそう思わないとシュウと同じ空間に居られなかった。
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