彼は私の全てだった
その夜、シュウは酔っ払って部屋に来た。

何となく怖かった。

腕を掴まれて後ろを向かされた。

壁に両手をつかされて脚を開かせる。

「ミチル…裏切ったら許さないからな。」

まるで獣みたいにシュウが私を抱く。

シュウが喘ぐ私の口に自分の指を入れた。

「俺と…一緒に逝ってよ。」

そしてシュウはまた私のクビに手をかけた。

苦しさと快楽は紙一重だ。

気が遠くなって…このまま終わる気がした。

シュウが果てて、私の首から手を離した。

「マジでオレ、お前の事殺しちゃいそうだな。」

私は泣いていた。

気持ちよくて苦しくて訳が分からなくて
シュウが好きすぎてどうにかなりそうだった。

こんな苦しい愛など欲しくなかったけど…

シュウを失ったらそれはそれで生きていけない気がした。

「中村のこと…これ以上好きになるなよ。

あんな目で他の男を見るな。」

シュウの気持ちがわからない。

「昼間はあの人と寝ろって言った。」

「寝たいって顔してたから。」

「してない。寝たいと思うのはシュウだけだよ。」

泣きながらそう言うとシュウは

「ごめん。」

と言って私を抱きしめた。

だから私はまたシュウを許してしまう。

「シュウ…彩未にもこんなことしてるの?」

「こんなことって?」

「こんな風に彩未の事も傷つけるの?」

「彩未はお前と違う。

こんな酷い俺を受け入れてくれるのはミチルだけだから。」

そんな風に言われるとそれ以上責められなくなった


それでも私もこのままじゃ壊れそうだった。

「だけど…私も優しくされたいよ。」

涙がまた溢れて止まらなくなる。

シュウはそんな私の涙を大きな手で何度も拭った。

「こうやって優しくしてるだろ?」

「今日は優しくなかった。」

「お前がよそ見したからだ。」

シュウは私のことが好きなのか、大切なのか
全く分からない。

シュウはまるで人の愛し方を忘れてしまったみたいだ。

だけど誰にももう捨てられたくないのだろう。

だから必死で私の気をひく。

やり方は間違ってるけど
きっとこれはみんなシュウからの愛のメッセージだ。









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