彼は私の全てだった
私は次の日から仕事に復帰した。

少し怠かったが、熱もないし
動いた方が元気になる気がした。

シュウは私を抱く時以外は相変わらず冷たい。

そして相変わらず彩未と仲が良かった。

私は中村さんと会えなくなったのに
シュウは平気で私を裏切る。

「柿沢さん、大丈夫?

熱はもう下がったの?」

中村さんが店にやってきて
いつもと変わらず笑顔で優しく私に聞いた。

やっぱりこの人と別れない方が良かったかな?
なんて考えが一瞬だけ頭をよぎってしまう。

「ご心配をおかけしました。

もう大丈夫です。」

中村さんがシュウと彩未を見て

「本当にこれでいいの?」

と聞いた。

私は何も言えず下を向くと

「辛くなったらいつでも戻っておいで。」

と中村さんが私の耳元で囁いて笑顔をみせる。

「じゃあ、頑張って!

またね。」

そして私の頭をポンと叩くと店を出て行った。

中村さんは素敵だ。

包容力のあるセクシーな大人の男だ。

私を傷つけるどころかいつも笑顔にしてくれる。

私はあの人の手を取らなかったことを後で後悔するかもしれない。

休憩室でそんなことを考えているとシュウが

「よそ見してんじゃねーよ。」

と私に言ってきた。

「そんなこと言う資格がシュウにある?」

私は彩未と別れてほしいと言いたくても言えないのに…シュウは私に中村さんと別れろと簡単に言った。

「それならお前の望み叶えてやるよ。

アイツと寝て来いよ。

アイツと寝て、アイツがどんなだったか報告しろよ。」

そしてまたこんな風に私を傷つける。

「本気で言ってるの?」

「お前、言ったろ?

オレのために何でもするって。」

シュウのお母さんはどうしてあんなに可愛かったシュウを捨てたのだろう?

そしてどんな死に方をして…シュウをこんなに変えてしまったんだろう。

「シュウは狂ってるよ。」

「だったら俺から離れろよ!」

そんなこと出来ないってわかってて
シュウは私にそんな酷い言葉を投げつける。






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