アンニュイな彼
まだ校内に残っている、部活や委員会の生徒たちから、すれ違うたびによそ者を見る好奇の目を向けられながら、私は秘密の場所に向かった。


「やっぱり……」


私は小声で呟いた。

今日もポカポカ、いい陽気。
先生は特等席で、静かに寝息を立てている。


「先生、今日もサボりですか?」


私は足音を立てないように静かに近づき、ゆっくりと中腰になった。
校舎の角に背をもたれ、腕を組む体勢で眠っている先生を覗き込む。

やっぱり、カッコいい……。
すっと通った鼻筋、薄くて形のいい唇。今は、動くことはない。


「先生、部活行かなくていいんですか?」


と囁いて、屈んで顔に落ちてくる髪を耳にかけようとした瞬間。
私は思わず息を飲んだ。


「__っ!」


長い睫毛が微動して、先生が薄目を開けた。
日差しに透ける茶色の瞳がちらりと動き、不意に口角は釣り上がる。


「……寝込み、襲う気?」


先生の目は揺らぐことなく一心に、私を捉えた。
射抜く、といった方が合ってるかもしれない。


「っ、」


私は驚いて、声を失った。

だってこんなに正確に、開けたばかりの目で私を捉えることができるなんて、それってつまり。


「せ、先生……! お、起きてたんですか⁉︎」


三年間、話しかけても一向に起きなかったのに……!
< 13 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop