次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
オルキスと出会ってしまったのだ。
言葉を交わして微笑み合い、細やかな心遣いや唇の柔らかさまで知ってしまった今、オルキスを知らなかった頃の自分に戻れるはずがない。
無意識にため息を吐きながら視線を移動させ、リリアはぎくりと身体を強張らせた。
二階部分にある窓から、こちらを見つめるエルシリア王妃の姿を見つけてしまったからだ。
エルシリアの冷ややかな眼差しは、まるで胸の内で熱く燻っているオルキスへの想いを非難されているかのようで、リリアは急に怖くなっていく。
怯えるままに後ずさりした身体を支えるように、温かな手がリリアの肩を包み込んだ。
「リリア」
声音に反応したリリアを、オルキスはそっと自分の胸元へと引き寄せた。
「余計なものは見なくて良い。無駄に心が乱されるだけだ」
優しい温もりに包み込まれ、無駄な力がゆっくりと身体から抜けていくのを感じながら、リリアはオルキスへと額を押し付け目を閉じた。
+ + +
「あの娘、見ているだけで嫌な気持ちにさせられる」
廊下からリリアたちのやり取りを黙って見下ろしていたエルシリア王妃が、静寂を破るように忌々し気に呟いた。