次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
声を震わせながらユリエルはオルキスから顔をそらすと、勢いよく背を向けて、逃げるように歩き出した。
ユリエルにとっては全ての望みを断ち切られた瞬間だったが、すぐに想いを捨て去ることなどできるはずもなく、未練という感情が怒りへと変わり……それはリリアへと向けられる。
気まずさで顔を俯かせたリリアの横を通りすぎようとしたその瞬間、互いにしか聞こえない声音でユリエルが冷たく囁きかけた。
「身の程をわきまえなさい。未来のアシュヴィ王の妃としてふさわしいのはあなたではない。このわたくしです」
ハッとして顔を上げたリリアと視線をしっかりと合わせるように、ユリエルもわずかに足を止める。
それまでの冷ややかな表情を覆い隠すかのようにユリエルはニコリと笑って優雅にお辞儀をしたのち、そのまま中庭の方へと足早に進んで行った。
重苦しい余韻に思わず胸元を手で押さえ、こちらを振り返ることなくどんどん遠ざかっていくユリエルの後ろ姿をリリアはじっと見つめた。
本来なら、オルキスと言葉を交わすことも、このような場所に立つことさえかなわない身分だということを再認識させられたが、それでもと、リリアは強く思ってしまう。