次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
オルキスは黒い花を凝視していたが、小さく響いたすすり泣きを耳で拾い、部屋の中を見回した。
「……セルジェルか?」
部屋の隅で膝を抱えて座っているセルジェルに気が付くと、オルキスは慌てて歩み寄る。
「大丈夫か? いったいなにがあった」
問いかけに顔を上げたセルジェルを見て、オルキスは眉を潜めた。
その頬にいくつかかすり傷ができていて、顎の部分は血を拭ったような跡もあった。
セルジェルは涙をこぼしながら、震える手を伸ばし、オルキスの腕を弱々しく掴んだ。
「……兄さん、ごめん。母さんが……彼女を助けなくちゃって思ったのに、何もできなかった」
オルキスは震える弟の手に自分の手を重ね置いたのち、怒りに声を震わせながら問いかけた。
「もしかして、リリアはここにいたのか?」
セルジェルからこくりと頷き返され、オルキスは奥歯を噛みしめた。
薬品の匂いが立ち込めるここで、エルシリア王妃がリリアに何をしたのか。考えるよりも先に、怒りに飲み込まれそうになる。
「リリアはどこだ」
「母さんが宴の場に連れて行った」
そっと手を離し、「行って下さい」という眼差しを向けてきたセルジェルの頭へとオルキスは手を乗せる。