次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
マルセロからにこやかに笑いかけられ、咄嗟に微笑み返したあと、リリアは頭を下げた。
そこで女性が、そこにいたことを初めて気づいたような顔でリリアを見る。
初めは不思議そうな顔をしていたが、徐々に怒りの表情へと変化していく。リリアが運命の乙女の条件に当てはまっていることに気が付いたからだ。
「見かけない顔ね」
威圧的に響いた声音に思わずリリアは身を竦めると、女性はふんっと鼻を鳴らす。
「わたくしは、サムエトロ伯爵ビニシオ・ボーマンの娘ユリエルと申します」
サムエトロ伯爵はモルセンヌより北西の地を治めていて、リリアたちもサムエトロ伯爵の広大な領地を通り、この地へとたどり着いたのだ。
「あなたは?」
リリアが纏う少しくたびれた外套を見ながらユリエルが半笑いで問いかけた次の瞬間、小さな悲鳴が上がった。
「いつまで俺に気安く触れている」
オルキスが自分の腕を掴んでいたユリエルの手を大きく振り払ったのだ。
あまりにも冷たい声音に、ユリエルだけでなくアレフも驚いたようで、小さく声を発しながらずずっと足音を立て後ずさりする。
「お、お許しください、オルキス様」