次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
そこまで気づいてしまえば、彼女もまた自分のように、予言のもとこの城に連れて来られた女性かもしれないとどうしても考えてしまう。
「何か用か?」
「いえ。オルキス様のお顔が見られなくて、寂しかっただけですわ」
目の前でぴたりと足を止め、優雅にお辞儀をしてみせた彼女は、甘えたように手を伸ばしてオルキスの腕を掴んだ。
親しい様子を見せつけられてしまい、彼女もオルキスが連れて来たのかもしれないと、一気に気持ちが沈んでいく。
ちくりと嫉妬で胸が痛むのを感じながらも、城の中にいる花嫁候補は彼女ひとりだけとは限らないと、そんな想像まで膨らませていく。
だとしたら、城の中だけでなくモルセンヌの町の至る所に、黄金色の髪に深緑の瞳を持つ娘がいることだろう。
どちらにせよ、自分はただの候補のひとりにすぎない。
その現実が胸に迫ってきて、リリアは切なさで表情を曇らせた。
ごほんと咳払いをしつつ、マルセロが進み出てくる。
「オルキス様。速やかに準備を整えるべく、わたくしは先に行かせていただきます。それではまたのちほど。失礼いたします」
“またのちほど”はリリアにかけられた言葉だった。