愛は、つらぬく主義につき。
 宴もたけなわ。サプライズで登場した芸妓さんの舞いに、鼻の下が伸びきったおじいちゃん。
 そのおじいちゃんに見初められ、猛アタックの末に落籍(ひか)された、元芸妓のおばあちゃんは。厳しくも懐かしそうな眼差しで。

 仲睦まじいまではいかなくても、おじいちゃんの古希を夫婦二人揃って迎えられたって言うのはさ。すごく幸せなコトだよね。
 お父さんの古希祝いには、誰か隣りに座る女(ひと)はいるのかなぁ。死んじゃったお母さん一筋ぽいけど、別に再婚してもいいんだからね? 許さないなんて、きっとお母さんだって言わないから。
 屏風の前の縁台に腰掛けた三人を眺めて、ふとそんな感傷が湧いた。

 
 あたしの左隣りには。車椅子に座り、優美な舞いを目で追う遊佐の横顔。じっと見つめてたら急にこっちを振り返った。

「どした?」

 悪戯気な笑み。でも包み込むように目が優しい。・・・ほらね。同い年なのに歳上みたい。誕生日だってあたしが6月で、遊佐が8月なのに。

「・・・なんでもない」

 ちょっと甘え口調で。・・・やだな。なんか泣きそう、あたし。
 おじいちゃん達見てたら、こんなに永く連れ添えて羨ましいなって。あたしはそうなれるかなって。あたしだけが・・・なりたいのかなって。
 遊佐を。どうやったら繋ぎ止めておけるんだろうって。

 ついと目を逸らす。
 すると。
 腕が伸びてきて、あたしの頭の後ろをやんわり掴まえた。
 そのまま顔を寄せられ、柔らかく唇が重なって数十秒。離れた後、おでこに一回キスが落ちた。
 目が合って。泣きそうだったのが、どこかに掻き消えてた。

 舞いが終わるまで遊佐はずっと手を繋いでてくれた。
 あたしが何を考えてたとか、そんなのは分かってくれてるワケじゃない。
 でも欲しがってるものは察してくれる。


 遊佐はあたしを分かるのに。


 あたしはちゃんと遊佐を分かってる?



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