愛は、つらぬく主義につき。
「俺になにか話があったんだろう?」

哲っちゃんは二人でいる時は敬語を使わない。柔らかい口調は変わらずに、こっちを優しく見下ろしてる。

「・・・うん」

見抜いてくれるだろうって思ってたけど。さすがだね哲っちゃん。立ち止まったあたしに合わせ、向き直って言葉を待ってくれる。

「仁兄のコトなんだけど」

思い切って言った。

「仁?」

少し訝し気な表情が返った。遊佐のコトだって思うよね普通なら。

「自分と結婚しろって・・・言われた。本気だからって。なんでいきなりそんなコト言い出したのか・・・哲っちゃん心当たりある?」

あたしの言葉を聴いた哲っちゃんは目を細めると、しばらく黙って煙草をくゆらせた。

「・・・そいつは知らなかったよ。ずい分とまたらしくねぇなぁ」 

「古希祝いの時さ、青柳さんが仁兄を若頭代理にする話も出てるって言ってたし。出世の為にあたしを利用するつもりなのかって・・・」

あの時のは演技で言った風には聴こえなかった。あたしを守る為なら恨まれてもいいって・・・どういう意味?
 
「・・・仁兄があたしを好きだなんて、今まで一度も言ったコトないのに」

あたしが遊佐しか見てないって知っててどうして。溢れ返る疑問。 

「そうさねぇ・・・」

闇空を仰ぐように、上に向かって白い吐息を立ち昇らせた哲っちゃんは、あたしに視線を戻すと仄かに笑みを浮かべた。

「それを見極めるのはお嬢自身でしかないと俺は思うがね。仁も真も、お嬢が思ってるよりずっと不器用なガキ共だ。嘘が真実なのかも知れねぇし、見えてるものだけが真実とも限らねぇ。・・・見落としなさんなよ」
 
切っ先を目の前に突き付けてるような鋭さを孕んだ眼光が流れて。甘い笑みが戻った。
 
「そろそろ帰ろうかね」

差し出された手を取り、来た道をまたゆっくりと。半分よりちょっと膨らんだお月様が、歩くたびに葉陰から覗いては消え。覗いては消えた。頭の中をまわる哲っちゃんの言葉みたいに。
< 35 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop