毒舌社長は甘い秘密を隠す

 十五分ほどタクシーに乗車し、四十階建てのビルの前で降りた。


「忘れ物を取りに来ました」
「お疲れさまです。お帰りの際もお声かけください」

 社員通用口から、警備員に社員証を見せて入館する。

 都市開発業の最大手【井浦リアルエステート】のグループ企業である我が社は、汐留にある親会社の本社ビルに入っている。
 法人や個人向けの不動産業はもちろんのこと、親会社のデベロッパー業にも携わっていて、年々社員の数も多くなってきた。
 だけど、昼間の賑やかさが嘘のように、この時間の社内は黒御影石の艶やかな床にヒールの音が響く。


 一階に下りていたエレベーターで三十階までやってきた。
 慣れた環境でも、この時間だとつい忍び足で歩いてしまう。社長室の並びにある秘書室のドアを、そっと押し開ける。

 明かりを点けると、窓に室内の様子と自分が映りこんだ。
< 2 / 349 >

この作品をシェア

pagetop