毒舌社長は甘い秘密を隠す

 ――四月。

 我が社も新しい一年が始まり、千堂社長を迎えた。

 今日は年度初めの全体会議で、親会社である井浦リアルエステートがある上階の大会議室へと向かっている。


「式はいつですか?」
「しばらく先になるかと思います」

 事情を知る千堂社長は、エレベーターでこっそりと聞いてきた。
 挙式や入籍は、お互い新しい環境になることもあって落ち着いてからにしようと決めてあるのだ。

 エレベーターを降りると、既に数人のグループ企業の役員たちがいて、千堂社長は早速声をかけ始めた。


「沢村さん」
「井浦社長、お疲れ様です」

 親会社の社長に就任した彼は、その麗しさにさらに磨きがかかっている。
 堂々とした風格と、後継者としての自信がにじみ出ているようで、惚れ直してしまいそうなほど。
 もちろん、仕事を離れている時間の甘く優しい彼にも、日々ドキドキさせられっぱなしだ。


「ちゃんと頑張れよ。俺がいなくて寂しいだろうけど」
「はい」

 大会議室に出席者が入っていく間、彼はこっそり私に呟いて小さく微笑んでから、背を向けた。


 彼は、出会った頃から変わらない。
 仕事に厳しいけれど、誰よりも社員を気にかけていたり、きちんと評価してくれる尊敬できる元上司だ。

 そして、これからは。
 ちょっと毒舌だけど、甘い秘密が大好きな、私の素敵な旦那様。


                ―fin―
< 339 / 349 >

この作品をシェア

pagetop