愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~


「心配ない。あの子、水疱瘡だった」
「水疱瘡?」


そういえば、私も子供の頃になった。全身に発疹が出来て熱が出たのを覚えている。感染性で保育園を1週間くらい休んだんじゃなかったかな。


「あの親子、最近ここら辺に引っ越してきたらしくて、ちょっと前に軽い風邪で診察したことあったんだ。シングルマザーってやつで、訳ありなのか身内も友達も近くにいない。相談できる人もいないし、若い子だし初めてのことでかなり動転してたみたいだから冷静に調べることも出来なかったんだろうな」


母親の青ざめた必死な顔を思い出す。私よりもずっと若いあの母親は不安だったろうな。手探りの子育ての中、知らない土地で藁にもすがる思いでここへ来たのではないだろうか。
だとしたら先生には申し訳ないけど、力になれて良かったと思う。


「助けてやれて良かったな」


藤堂先生がとても優しい声でそう言うもんだから、つい弾かれたように顔を上げてしまった。
すると居心地悪そうな顔をする。


「なんだよ。そもそもなぁ、あんな風に駆け込んで来やがって! かなり驚いたぞ」
「それは、すみませんでした」
「マジで、お前に何かあったのかと思った」


ホッと安心したような口調に心臓がドキンと鳴る。
私に何があったのかと心配してくれたの?
部屋から出てきてくれた時の先生を思い出す。掴まれた肩の温かさと力強さがリアルに思い出され、照れ臭くなってしまった。



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