恋を知らない
1 〈マンション〉

ぼくは言ってみれば精子を作る機械だ。体内で上等の精子を作って供出する。それがぼくの仕事だ。

だから、今ぼくが裸になって行っているこの行為も、仕事そのものだ。

今、ぼくの体の下では、同じく裸になった推定年齢30歳の美女が、肩までのびた黒髪をふり乱し、悦びの声をあげている。

場所は、ぼくらにあてがわれた3LDKのマンションの寝室。4メートル四方という、17歳の少年には分不相応に広い寝室で、これもぼくの歳にはぜいたくなダブルベッドの上で、いわゆるセックスをしているのだった。

「ああァ、シュウ、キスして」

ぼくの下にいる女性が、ふいに甘い吐息まじりに懇願する。

シュウ、というのがぼくの名前だ。フルネームは片辺シュウという。歳は17歳。高校2年生だ。

ぼくは彼女の要請を無視して、両の肘で体を支えたまま、淡々と前後運動を続ける。

この行為は精子を供出するための「作業」でしかないのだから、愛情表現なんてよけいなものはいらない、というのがぼくの考えだった。

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