恋を知らない
7 (回想)

それから2週間たった先週の日曜日。

ぼくはその女の子を再び見かけた。

場所は、市の中心から少しはずれたところに位置するコンサートホールだ。

市の音楽祭がそのホールを中心に行なわれており、安い入場料で楽しむことができた。手当の大半を父親に渡しているため、ぼくは小遣いが少ない。マリアをつれて出かけていくには、ありがたい行先だった。

バス停から街路樹の下をブラブラと歩いて、コンサートホールへ向かった。ホールのしゃれた外観がよく見える位置で立ちどまり、ウェラブル端末のグラスをかけて、写真を撮ることにした。

ぼくは将来建築の設計に携わりたいと思っている。だから、気に入った建築物を見ると、そうして写真に撮っていた。

仮想平面のフレームの中にホールを収め、撮影のために指でクリックしようとした。

そのときだ。

ぼくは息を呑んだ。

建物の右側前方に、あの子の姿を見つけたのだ。友だちらしい女の子といっしょに、ホールの入り口に向かって歩いていた。

ぼくは心臓が飛び出しそうになるくらい驚いていたが、となりのマリアに気づかれないようにするために、必死に自分の動揺を抑えた。

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