それでも僕は君を離さないⅢ
φ. 貴彦の苦難と樹里への想い
多田貴彦は決算を見据えた今期の自分の営業成績とにらめっこをしていた。

「多田さん、織田チーフがお呼びです。」

「わかりました。」

PCを畳んで小脇にはさみ席を立った。

「失礼します。」

織田チーフは何やら考え顔でデスクから貴彦を見上げた。

「多田くん、今日の午後空いてるかしら?」

「緊急案件ではないので変更できます。」

「ありがとう。私に同行してほしい件があるの。PCで確認してね。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

何だろう?

チーフに同行は初めてだ。

貴彦は席に戻ってフォルダーをチェックした。

訪問先はどこだろうか。

橋爪コーポレーション?

なんだ、ビル内じゃないか。

取引先というよりグループ会社のようなものだ。

どういった件だろう。

来期大口契約に伴う社内プレゼン選考委員会?

マジか?

これはチーフの出世のヘルプってことじゃ?

俺でいいのか?

俺がチーフを補佐できるのか?

あれこれ考えていたら外出の時間になってしまった。

先方の広い会議室には20数人がいた。

貴彦は夢中で手元の資料に目を通していた。

隣に座ったチーフの声でハッとした。

「承知いたしました。このプレゼンは私と多田で担当させていただきます。よろしくお願いいたします。」

そんな大役が俺に務まるのか?

一体誰が決めたのだろう?

と同時に当分樹里と食事できないことを覚悟した。

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