それでも僕は君を離さないⅢ
次の日の出勤前にミネラルウォーターを喉に流し込んでいたらスマホが光った。

彼女だ。

こんな朝早くにメールではなく電話だ。

「樹里?」

「貴彦さん、私、会いたい。何度もメールしました。」

「ごめん。仕事にかまけて返信もできなくて。」

「いいんです。今、声が聞けたから。ありがとうございます。」

「樹里。」

「はい。」

「俺も会いたい。君と同じ気持ちだ。それを覚えておいて。」

「はい、覚えておきます。」

「ありがとう。じゃ、行くから。」

「お気をつけて、行ってらっしゃい。」

たった30秒足らずの通話だったが、二人にとってそれは他の何にも代えがたい濃い時間となった。

ステーキの約束から1ヶ月半も経ってしまった。

その間、彼女は一度も貴彦を責めなかった。

それどころか仕事の大切さや、上司とのスムーズな接し方や励ましの言葉が毎日メールに綴られていた。

地下鉄に揺られながら返信した。

「樹里、ありがとう。君には感謝してもしきれないほどの気持ちだ。ステーキの約束はまだ有効だろ?」

すぐに返信が入った。

「無期限です。」

アッハッハッハ!

貴彦は口元を手で押さえ、心の中で大いに笑った。

< 54 / 58 >

この作品をシェア

pagetop