曖昧な私に珈琲を。
神崎さんは私が何を頼むか迷っている事に気がついたようで大きくてそれなのにほっそりとした長い指をトン。とメニューに置いた。

『RoseRoseブレンド珈琲』

「…ブレンド珈琲ですか?」

私が無難過ぎる回答をする神崎さんを戸惑い気味に見ると神崎さんは涼し気な目を細めてうなずいた。

「おひとりさまのご新規様はまずはブレンド珈琲をおすすめしてます」

先程までくだけた口調だったのにかしこまってお辞儀をしていうものだから少し可笑しいとふふと笑うと神崎さんもニコリと笑い返してくれた。

「美味しいですよ。俺の淹れた珈琲は」

「自信、あるんですね」

「もちろん」

少し見つめ合う。

相変わらず神崎さんは微笑んでいるけど、ずっと見てるとドキリとするオーラというか、魅力のある人だなと思った。


「…じゃ、ブレンド珈琲、お願いします」


「かしこまりました」


神崎さんがそういうのと同時くらいにスタッフルームと書かれた扉からもうひとり男性が出てきた。


「あぁ、岡崎さん、この珈琲A-3卓にお願いします」


「はいよ」


神崎さんよりもうひと回り年上そうな人だ。


30代くらいだろうか。


明るい茶髪をウェーブをかけて流した髪型はこの店の雰囲気にぴったりとしていると思った。


もちろん、神崎さんもぴったりだと思う。


なんというか素敵な人が集まる場所なんじゃないか。って思った。


神崎さんのドリップしている先のテーブル席を見ると私くらいの年代の女性やカップルがいる。


店内は小さい音量で静かなジャズが流れていて落ち着けてオシャレで、程よい空間だ。


気を紛らわせるのに入って正解だったな。なんて思いながらドリップしている様子を眺める。


珈琲に関しての知識は殆どないのでどういうドリップなのかは全然分からないけど、神崎さんの仕草や立ち振舞いを見ていると気持ちがワクワクした。
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