曖昧な私に珈琲を。
ドリップが終わって、カップに珈琲が注がれる。

「ミルクはお使いになりますか?」

「はい」

「かしこまりました」

カップがピンクのローズが上品に描かれた可憐な柄で心が躍る。

珈琲がカウンター席にコトンと置かれる。

「おまたせいたしました。RoseRoseブレンド珈琲になります」

「ありがとうございます」

珈琲を一口飲んで、純粋に凄く美味しいと思った。

えぐ味やキツイ苦味も無い。落ち着く香ばしい香りがする。

「でもよかった」

「え?」

「お客さん、来た時は落ち込んでいるように見えたけど、今は穏やかな顔してるから」

そんなに顔に出てたかなと驚いて神崎さんを見る。

少し元気になってよかったと言って笑う。

「私、そんな顔に出てましたか?」

「ううん。雰囲気、かな」

「…実はここだけの話。凄く落ち込む出来事が前あって…。時間が解決してくれると思ってたんですけど、なんだか、悪化したような…事があってですね。入学して心機一転って気持ちにもなれず…って感じで…」

なに言ってんだろ私、なんて思って何でもないですと言おうと思ったら神崎さんは優しく笑って私を見た。

「大切な人なんだね、そこに関係している人は」

「…!」

ここまで落ち込んでて朧げでもここまで話したら大切な人だって誰でも思うかもしれないけど、神崎さんの言葉を聞いて酷く動揺している自分がいた。


落ち着こうと思って珈琲を飲む。


うん、やっぱり。


「美味しいな…」


少し2人を思い出して涙が出そうになったけど、なんとかこらえてもう一口珈琲を飲んだ。


「そうでしょ?お客さんのためだけに淹れた珈琲だからね」


「心こもってるなぁ…また来たいなぁ…」

もう涙声だけどなぜか私は笑ってた。

「また来てよ。美味しい珈琲、淹れてあげますよ」


神崎さんはその日、私が泣きそうとか、いや、すでに泣いてたとかそういった事は気付かないフリをしてくれて、ただただ穏やかに話したり、聞いたりしてくれた。
< 7 / 26 >

この作品をシェア

pagetop