iNG 現在進行形の恋【濃縮版】

それから一ヵ月半後、久しぶりの東京。

私は母にも誰にも告げずに帰ってきた。

建ち並ぶビルや人の多さに懐かしさを感じたが、故郷に帰ってきた嬉しさは微塵も無い。

駅から出ると桜が咲いているのが見えた。
真冬のコートを着ている人は見当たらない。
外は春を運んできていた。

あの全てを失った時と同じ季節に東京に戻ってくることになるとは思ってもいなかった。
そのせいか当時の感情がふと沸き上がった。

きっと周りの皆は夢と新しい生活に胸を踊らせていたあの時、私は絶望の中に居た。
私は劣等感ばかりを感じていた。

でもあれから五年が経った。

もう同級生達は学生ではなく、私と同じ社会人になっている。
その五年という年月が私を少し安心させてくれたが、ここは人だらけ街。
簡単に知り合いに再会するとは思えないが、私は下ばかりを向いて足早に歩いた。